キハダマグロ釣り完全ガイド|初心者向けタックルと釣り方

夏の訪れとともに、多くのオフショアアングラー(船釣りを楽しむ人)を熱狂させるターゲット、それが「キハダマグロ」です。黒潮に乗って沿岸へと回遊してくるこの魚は、20kgから時には50kgを超える巨体となり、その猛烈なスピードとスタミナ溢れる引きは、一度味わうと誰もが虜になります。また、その身は極上の食材としても知られ、釣り上げること、そして味わうこと、その両方が釣り人にとって最高の喜びとなります。
しかし、その人気と裏腹に「どんな道具を揃えればいいのか」「ルアーとエサ、どちらが良いのか」「専門的で敷居が高いのではないか」といった悩みから、最初の一歩を踏み出せないでいる方も少なくありません。この記事では、そんなキハダマグロ釣りに挑戦したいと考える入門者の方へ向けて、必要な知識と技術を体系的に解説します。
キハダマグロ釣りの基本情報
キハダマグロ釣りを成功させるためには、まず相手を知ることが重要です。ここでは、キハダマグロの生態的な特徴と、釣りに最適なシーズン・エリアについて解説します。
キハダマグロの生態と特徴
キハダマグロは、スズキ目サバ科に属するマグロの一種で、その名の通りヒレや体の一部が黄色いことが特徴です。全世界の温帯から熱帯の暖かい海域を高速で回遊しており、遊漁の対象となるのは主に20kg〜50kgクラスです。
最大の武器は、ヒットした瞬間に時速数十キロともいわれるスピードで走り出す瞬発力です。この強烈なファーストランをいかに耐え、主導権を握るかが釣りの鍵となります。主な捕食対象(ベイト)はイワシやシイラ、カツオ、トビウオなどで、キハダマグロを狙う際は、その時に何を捕食しているか(ベイトパターン)を把握することが釣果への近道となります。
シーズンと代表的なエリア(相模湾・三重・沖縄など)
日本国内でキハダマグロを狙うベストシーズンは、黒潮に乗って北上してくる夏から秋(概ね7月〜10月)です。この時期、ベイトとなるイワシの群れを追いかけて沿岸に接近するため、遊漁船で狙いやすくなります。
- 相模湾(神奈川県・千葉県): 首都圏からのアクセスが良く、夏のキハダマグロゲームの超人気フィールドです。遊漁船の数が非常に多く、初心者向けのサービスも充実しています。
- 三重県(志摩沖など): 黒潮が直接当たるエリアで、大型のキハダマグロが狙えることで有名です。「キハダキャスティング」発祥の地ともいわれ、多くのエキスパートが集います。
- 沖縄県(久米島など): パヤオ(浮魚礁)周りで、年間を通してキハダマグロを狙うことが可能です。冬でも温暖な気候で釣りができるのが最大の魅力です。
- 和歌山県(串本沖など): こちらも黒潮の恩恵を受ける好漁場として知られています。
キハダマグロの2大釣法:ルアーとエサ釣り
キハダマグロを船から狙う方法は、主に「ルアーフィッシング」と「エサ釣り」の2つに大別されます。どちらも魅力的な釣り方であり、船宿によってメインの釣法が異なるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
【ルアー】キャスティングゲームの魅力と基本
現在、最も人気が高いのが、ルアーを投げてキハダマグロを狙うキャスティングゲームです。船でキハダマグロの群れ(ナブラ)を探し、見つけたらルアーをキャストして誘い出します。
最大の魅力は、水面が炸裂し、キハダマグロがルアーに襲いかかる瞬間を目の当たりにできる視覚的な興奮です。ナブラを探す探索能力、正確なキャスト技術、ルアーを操作するテクニックが求められるゲーム性の高い釣りです。積極的に魚を探し出し、自らの技術で食わせたという満足感は格別です。初心者には難しく感じるかもしれませんが、多くの船宿でレンタルタックルやレクチャーが用意されています。
【エサ】コマセ釣りの特徴と戦略
コマセ(オキアミなどの撒き餌)を使ってキハダマグロを寄せて釣るのがコマセ釣りです。付けエサにもオキアミを使用し、コマセの煙幕の中に同調させて食わせます。
ルアーに反応しないような状況でも、嗅覚と食性に直接訴えかけるため、確実性が高いのが特徴です。特に、船団ができて多くの船がコマセを撒いている状況では、エリア全体のキハダマグロの活性が上がり、ヒットのチャンスが増大します。じっくりと魚の回遊を待つ釣りで、一発逆転の大型がヒットすることも少なくありません。特に相模湾では古くから行われている伝統的な釣法です。
初心者向けキハダマグロ用タックル徹底解説
キハダマグロ用のタックルは、その強烈な引きに耐えうるパワーと耐久性が求められます。ここでは、現在主流のキャスティングゲームを基準に、初心者が揃えるべきタックルのスペックを具体的に解説します。
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キャスティング用ロッドの選び方(パワーと長さ)
キハダマグロ用キャスティングロッドは、8ft(フィート、約2.4m)前後の長さが標準です。適合ルアーウェイトはMAX100g〜120g、適合PEラインは6号〜8号クラスのパワーを持つモデルが、20kg〜40kgクラスのキハダマグロに対応できます。長すぎると船上での取り回しが悪く、短すぎると飛距離が出ないため、このバランスが重要です。
キャスティング用リールの選び方(番手とドラグ性能)
スピニングリールの10000番〜14000番(シマノ社基準)または5000番〜6000番(ダイワ社基準)が適合します。PEライン6号を300m巻けるラインキャパシティは必須です。最も重要なのはドラグ性能で、最低でも最大ドラグ力15kg以上、実用ドラグ力10kg以上のスペックを持つ、剛性の高いモデルを選びましょう。
ラインシステム(PE号数とリーダーの太さ)
- PEライン: 初心者はPE6号を300m巻いておくのが最も汎用性が高くおすすめです。これにより、不意の大物にも対応できます。
- ショックリーダー: 根ズレに強く、衝撃を吸収するナイロン製の130lb(ポンド)〜140lbを基本とします。長さは、キャスト時に結び目が竿のトップガイドの外に出る程度(約2.5m〜3m)が目安です。
おすすめルアー(ダイビングペンシル/ポッパー)
キハダマグロがイワシなどの小魚を捕食している状況では、水面直下を泳ぐ「ダイビングペンシル」(180mm〜220mm)が非常に有効です。まずはこのタイプから揃えましょう。魚の活性が高い時や、遠くの魚にアピールしたい時は、水しぶきを立てる「ポッパー」も効果的です。
キハダマグロ釣りの実践的なテクニック
良いタックルを揃えたら、次は実釣での技術です。ここでは、釣果に直結する3つの重要なテクニックを解説します。
ナブラの見つけ方とアプローチ
ナブラとは、キハダマグロがベイト(エサとなる小魚)を水面まで追い詰めて捕食している状態のことで、海面が沸き立ち、鳥が集まっているのが目印です。船長がナブラを探して船を走らせますが、釣り人も常に周囲を見渡し、いち早く発見することが重要です。船がナブラに接近したら、進行方向の少し先を予測してルアーをキャストするのが基本です。ナブラのど真ん中に投げ込むと群れが散ってしまうため注意が必要です。
ルアーアクションの基本
ダイビングペンシルの基本的なアクションは「ロングジャーク&ステイ」です。ロッドを大きくあおってルアーをダイブ(潜らせる)させた後、ラインを少し巻き取り、ルアーが浮き上がるまで数秒間ポーズ(静止)させます。この浮き上がる瞬間にヒットすることが多いため、「食わせの間」を作ることが非常に重要です。
ヒット後のファイト術
ヒットした瞬間、キハダマグロは猛烈な勢いでラインを引き出します。この時は無理に止めようとせず、リールのドラグを信じて走らせます。魚の走りが弱まったら、ロッドを立てて体重を乗せるように魚を寄せ(ポンピング)、竿を下げながら素早くリールを巻きます。この動作を繰り返し、少しずつ距離を縮めていきます。長時間のファイトになるため、体力配分を考えて冷静に対処することが肝心です。
釣果を左右する船宿選びと当日の流れ
キハダマグロ釣りは、船長の操船技術や状況判断が釣果に大きく影響します。初心者の方は、安心して任せられる船宿を選ぶことが成功への第一歩です。
初心者が失敗しない船宿選びの3つのポイント
- 初心者へのサポート体制: 予約時に「初めてである」ことを伝え、レクチャーやサポートの有無を確認しましょう。「初心者歓迎」を掲げ、レンタルタックルが充実している船宿がおすすめです。
- 情報発信の頻度と質: ウェブサイトやSNSで釣果情報をこまめに更新している船宿は、信頼性が高い傾向にあります。どのような状況で、どのように釣れたかなど、内容が詳細なほど参考になります。
- 船の設備: 長時間の釣りになるため、キャビンやトイレなどの設備が整っているかどうかも重要です。特に女性や子供連れの場合は、事前に確認しておくと安心です。
予約から帰港までの1日の流れ
- 予約: 電話またはウェブサイトから予約します。その際、釣り方、集合時間、料金、レンタルタックルの有無などを確認します。
- 当日(集合〜出船): 指定された時間に港へ集合し、受付と支払いを済ませます。乗船名簿を記入し、氷を受け取って乗船します。
- 釣り開始: ポイントに到着後、船長の合図で釣りを開始します。ナブラを探しながら移動を繰り返します。
- 沖上がり・帰港: 規定の時間が来たら釣りを終了(沖上がり)し、港へ戻ります。
- 解散: 帰港後、タックルを片付け、釣果の記念撮影などをして解散となります。
釣ったキハダマグロの価値を保つ処理と持ち帰り方
苦労の末に釣り上げたキハダマグロは、最高の状態で持ち帰り、美味しくいただきたいものです。そのためには、船上での適切な処理が不可欠です。
船上での締め方と血抜きの手順
キハダマグロを釣り上げたら、まず速やかに「締める」作業を行います。暴れる魚の脳天やエラ付近にある急所を、手鉤やナイフなどで突いて絶命させます。その後、エラの一部を切開し、可能であれば尾の付け根にも切れ込みを入れ、心臓が動いているうちに海水を張ったバケツなどに頭から入れて血を抜きます。この血抜きを丁寧に行うことで、身の生臭さがなくなり、鮮度と味が一気に向上します。
鮮度を保つクーラーボックスと氷の準備
20kgクラスのキハダマグロでも、丸ごと持ち帰るには80L〜100Lクラスの大型クーラーボックスが必要です。事前に船宿に最大サイズを確認しておくと良いでしょう。氷は、船宿で用意されていることが多いですが、量に限りがあるため、ブロック氷などを多めに持参すると万全です。魚全体が氷に直接触れないよう、ビニールシートなどで包んでから冷やすと、身の変色(氷焼け)を防げます。
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キハダマグロ釣りに関するFAQ
Q1. キハダマグロ釣りは禁止されていますか?
A1. いいえ、2025年9月現在、キハダマグロの遊漁(レジャーとしての釣り)を全面的に禁止する国の規制はありません。ただし、地域や船宿によっては独自のルール(サイズ制限や持ち帰り数の上限など)を設けている場合がありますので、釣行前に必ず確認してください。
Q2. 初心者でもキハダマグロは釣れますか?
A2. はい、釣れる可能性は十分にあります。初心者向けのレクチャーを行い、レンタルタックルも充実している船宿を選べば、経験豊富な船長がサポートしてくれます。ヒット後のファイトは大変ですが、それもキハダマグロ釣りの醍醐味です。
Q3. 堤防からキハダマグロは釣れますか?
A3. 極めて稀なケースを除き、堤防からキハダマグロを釣ることは非常に困難です。キハダマグロは外洋を回遊する魚であるため、専門の遊漁船(船釣り)で沖へ出て狙うのが一般的です。
Q4. キハダマグロ釣りの船の値段はどのくらいですか?
A4. エリアや時間によって異なりますが、乗合船の場合、1人あたりおおむね18,000円〜30,000円程度が相場です。これに乗船料や氷代が含まれています。レンタルタックル代は別途3,000円〜5,000円程度かかることが多いです。
Q5. 最低限必要なタックルは何ですか?
A5. キャスティングで挑戦する場合、「8ft前後のキャスティングロッド(PE6号対応)」「10000番〜14000番の大型スピニングリール」「PEライン6号(300m)」「ナイロンリーダー130lb」「ダイビングペンシル(1〜2本)」が最低限必要なタックルセットとなります。
まとめ
この記事では、キハダマグロ釣りに挑戦するための基礎知識から実践的なテクニックまでを網羅的に解説しました。夏の相模湾などを中心に、多くの釣り人を魅了するこの釣りは、決して簡単なものではありませんが、正しい知識と準備があれば初心者でも十分にメモリアルな一尾を手にすることが可能です。
重要なのは、タックルのスペックを理解し、船宿を吟味し、そして何より安全に楽しむことです。船長の指示には必ず従い、ライフジャケットは常に着用してください。また、キハダマグロにはクロマグロのような厳しい採捕規制は現在ありませんが、地域のルールや船宿のルールは必ず守り、必要以上のキープは控えるなど、資源を大切にする心も忘れてはなりません。万全の準備を整え、夢のキハダマグロとのファイトに臨んでください。